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Column
大幸コラム

中国のレアアース追加5種の輸出規制実施について

中国商務部と海関総署は10月9日、「輸出管理法」「対外貿易法」「税関法」「両用品目輸出管理条例」に基づき、レアアースおよびその関連設備を含む複数の品目に対して、輸出管理を実施する旨の公告を発表しました。

https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2025/art_59ec4f6bec0b459aa4a30c4bbd0a41c1.html

追加輸出管理の対象となったのは、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、ユウロピウム、イッテルビウムの5種の中・重レアアース(中重ラントハノイド領域)です。

1. 背景・概要

  • 中国政府(具体的には 中国商務部(MOFCOM)および 中国国家税関総署(GACC))が、2025年10月9日に一連の「中・重レアアース関連物項目(及び関連装備・材料)」の輸出管理強化を発表しました。

  • この発表によると、対象となる元素5種(ホルミウム、エルビウム、ツリウム、ユウロピウム、イッテルビウム)およびそれらの金属・合金・化合物・加工製品、並びに関連するレアアース精製/加工装置が「デュアルユース(軍民両用)用途を含む」ものとして、輸出ライセンス(許可)を要する管理対象に追加されます。

  • 発効時期は主に 2025年11月8日 から。さらに、製造された製品(中国起源のレアアースを使用、あるいは中国製技術を用いた製品)に対しても輸出管理の対象になるという「越境適用(エクストラテリトリアル)制約」も公表されています。

  • 中国側の説明では、「これらレアアース関連項目は、民生用途に加えて軍事用途・安全保障用途を含むデュアルユース性を備えており、輸出管理を強化するのは国家安全保障・不拡散義務・国際慣行に則った措置である」としています。

  • 国際的には、これは中国がレアアース分野で持つサプライチェーン優位性を背景に、ハイテク・防衛・半導体分野での影響力を維持・拡大しようとする動きと見られています。

2. 対象5元素それぞれの特徴・用途

以下、各元素の概要(元素としての性質・用途)を整理します。

2‑1. ホルミウム(Holmium, Ho)

  • 元素記号:Ho、原子番号67。ランタノイド系列のレアアース元素。

  • 特性として、「自然界の元素中では最大の磁気モーメント」を持つものの一つである点が注目されています。

  • 用途例:

    • 強磁場用途・永久磁石のポールピースとして、磁場を集中・強化する用途に使われます。

    • 原子炉の制御棒(中性子吸収体)用途としても使われることがあります。

    • 医療レーザー(Ho:YAGレーザーなど)、およびガラス・ジルコニア着色用途等でも用いられます。

  • 市場・供給:比較的用途は限定的ながら、高性能用途・安全保障用途があり、供給面での懸念も指摘されています。

2‑2. エルビウム(Erbium, Er)

  • 元素記号:Er、原子番号68。ランタノイド系列。

  • 用途:

    • 光ファイバー通信の分野で、Er³⁺ドープされたファイバー増幅器(EDFA: Erbium‑doped fiber amplifier)に使われ、広帯域信号の増幅に寄与します。

    • 赤外線吸収ガラス、レンズ、溶接用保護眼鏡などの用途があります。

    • 合金用途では、金属の加工性改良や特定用途の材料としても使われます。

  • 補足:通信・レーザー・光学関連用途が比較的メジャーで、ハイテク用途に直結することから、輸出管理対象となる意味合いも理解できます。

2‑3. ツリウム(Thulium, Tm)

  • 元素記号:Tm、原子番号69。ランタノイド系列。用途・埋め込み度とも比較的少ない元素です。

  • 用途:

    • 医療用途として、放射化するとX線源となる同位体を小型携帯型X線装置に使う例があります。

    • レーザー(例えば手術用レーザー)用途。

    • 高温超伝導材料や特殊セラミックス用途にも言及されることがあります。

  • 備考:用途は限定的で、量としてはマーケット全体では他のレアアースほどの使用量ではないものの、戦略・特殊用途で価値があります。

2‑4. ユウロピウム(Europium, Eu)

  • 元素記号:Eu、原子番号63。ランタノイド系列。

  • 用途:

    • 蛍光体用途:LED、蛍光ランプ、テレビ・ディスプレイの赤色発光材料として使用。

    • 偽造防止用途:銀行券(例:ユーロ紙幣)のセキュリティ印刷で、ユウロピウム蛍光体が使われている例があります。

    • 原子炉制御棒・中性子吸収材としての役割も一部で言及されています。

  • 補足:かつて蛍光ランプ・CRTディスプレイの用途で非常に重要視された元素ですが、技術の移行(LED化など)により用途構成が変化してきています。

2‑5. イッテルビウム(Ytterbium, Yb)

  • 元素記号:Yb、原子番号70。ランタノイド系列。

  • 用途:

    • レーザー用途:Yb³⁺ドープのファイバーレーザーや固体レーザーがあり、高出力レーザー用途で使われています。

    • 量子技術用途:Yb⁺イオンがトラップイオン量子ビットとして研究されており、量子コンピューティング分野でも注目されています。

    • 産業用触媒用途、金属強化用途、X線装置などの機器用途も言及されています。

  • 補足:用途が将来技術(量子コンピュータ、レーザー加工等)に直結するため、戦略的価値が高まっている元素とも言えます。

3. 今回の発表のインパクト・意義

  • 中国が追加した5元素は、「中・重レアアース(中重ラントハノイド領域)」に含まれ、かつ特定用途(高性能磁石、通信・光学、医療・軍事レーザー、量子技術など)に使われる例があるため、輸出管理の対象として戦略的な意味があると見られています。

  • 輸出管理のスコープには、元素そのものの輸出だけでなく、「その元素を使った合金・磁石・化合物」「それらを製造・加工する装置・技術」「さらには中国起源のレアアースを使った海外製品」まで含まれており、サプライチェーン全体に対する影響力が強まっています。

  • 時期的に、米中間でのハイテク・安全保障を巡る緊張・交渉の文脈(例: ドナルド・トランプ米大統領、 習近平中国国家主席の会談見通しなど)とリンクしており、レアアースを「交渉カード」「供給網レバレッジ」として位置付ける意図があると分析されます。

  • また、世界的にレアアース・磁石・モーター・半導体・量子技術などを巡る「供給制約リスク」が意識されており、今回の発表が産業・防衛サイドにショックを与えています。

4. 日本・世界への示唆/リスクと対応

  • 日本を含む輸入国・製造国・技術国にとって、中国からのこれらレアアースや加工品・磁石・合金などの供給に対して「予備在庫」「代替供給源」「リサイクル・代替材料開発」といった対応強化が求められそうです。

  • 特に、上記5元素は用途こそ少量でも「高付加価値」「ハイテク・防衛分野」用途につながるため、代替調達やリスク管理が経営・国家レベルで関心が高まる可能性があります。

  • 中国側も「適法・合法な輸出については申請・許可を出す」「グローバル産業・供給網の安定・滑らかな運営にも協調する用意がある」と文言を添えています(ただし条件付き)ので、過度な供給停止というよりも「管理強化・許可制化」というスタンスと捉えることができます。

  • ただし、実務面では「いつ・どの程度許可が下りるか」「サプライチェーン上の手続き遅延・コスト上昇」「前倒し発注・在庫積み増しなどの行動変化」が起きる可能性も高く、関連産業には警戒が必要です。

 

弊社では上記、5種のレアアースの関連品目が含有する資材、薬品等を使用しておりませんので影響は御座いません。