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Column
大幸コラム

米中協議の合意内容が発表。中国は輸出管理関連措置などを1年停止(レアアース含む)

米中協議の合意内容を発表、米国は対中関税10%分を撤廃、中国は輸出管理関連措置などを1年停止(レアアース含む)。

中国商務部は10月30日、米中の経済貿易交渉団がマレーシア・クアラルンプールで行った協議の主な合意事項を報道官談話の形式で発表しました。

弊社での使用はありませんが、中・重希土類7種及び5種について、確認します。

合意内容のポイント

  • 中国は、10月9日またはそれに近い時期に新たに設けようとしていたレアアース等の輸出管理措置(ライセンス強化など)を、 1年間停止 することで合意したと報じられています。

  • 具体的には、レアアース関連の輸出許可やライセンス制度の強化・実施を即時には行わず、少なくとも1年見送るという内容です。

  • アメリカ側も、これに見合って関税の引き下げや、船舶・物流業界への報復措置の一時停止など、複数の通商分野で「休戦」的な措置を取ることで合意しているようです。


⚠️ 留意すべき “但し書き”

  • この「1年停止」が 既に実施済みの規制を全て解除する という意味ではない可能性があります。特に、2025年4月4日(あるいは4月7日)に中国が発表した中・重希土類7種を含む輸出管理強化措置が、少なくとも報道時点では「継続中」であるという指摘があります。

  • 合意文書そのものが公式に詳細を明らかにしておらず、「枠組み合意」「暫定合意」という表現が多く使われており、実際の運用・履行の仕方には不透明な点があります。

  • そのため、レアアース輸出の「完全な自由化」や「永久的な規制解除」ではなく、「少なくとも1年間、追加的・新規の強化措置を凍結する/延期する」程度の合意と理解するのが妥当です。


🔍 レアアース側の状況

  • 中国は2025年4月4日付で、サマリウム・ガドリニウム・テルビウム・ジスプロシウム・ルテチウム・スカンジウム・イットリウムの “中・重希土類”7種(金属・合金・酸化物・化合物)に対して輸出管理強化を公告・即時実施しました。

  • このため、輸出許可申請の承認率が低く、自動車・部品メーカーなどで供給途絶や生産停止の事例が出ています。

  • 合意ではこのような状況を踏まえ、輸出管理の緩和・調整を進める枠組みに入ったとされています。

現状整理

まず、どの物質が対象となっており、どのような措置が実施されているかを整理します。

7物質

2025年4月4日付で、同国の 中華人民共和国商務部(MOFCOM)および 中華人民共和国海関総署 が、以下の中・重希土類 7 種に関して 即時実施の輸出管理措置を発表しました。

対象:

  • サマリウム (Samarium)

  • ガドリニウム (Gadolinium)

  • テルビウム (Terbium)

  • ジスプロシウム (Dysprosium)

  • ルテチウム (Lutetium)

  • スカンジウム (Scandium)

  • イットリウム (Yttrium)

制度内容としては、これら物質の金属、合金、酸化物、化合物、混合物、さらにはそれらを含む永久磁石材料などが、輸出時にライセンス(許可)を取得する義務を負う、というものです。

5物質

さらに、2025年10月9日付(発表日)で、同国がさらに 5種の希土類元素+関連材料を輸出管理リストに追加すると発表しました。
対象:

  • ホルミウム (Holmium)

  • エルビウム (Erbium)

  • テルミウム (Thulium)

  • ユーロピウム (Europium)

  • イッテルビウム (Ytterbium)

この追加分については、関連する設備・原材料(希土類加工機器、バッテリー関連材料等)も含む幅広い対象となっており、11月8日をめどに(またはその時点から)許可制が適用されると報じられています。


🔍 今後どうなるか(見通し・影響・注意点)

この動きを踏まて、「今後どのように進むか」「関係者は何を意識すべきか」について整理します。

1. 許可制度の運用が鍵

これらの輸出管理が「禁止」ではなく「許可制(ライセンス制)」という点が重要です。例えば、7物質分の発表文には「輸出時に許可を申請せよ」と明記されています。
つまり、以下のような動きになる可能性があります:

  • 通常用途・合法用途であれば、申請を通じて許可が出る場合あり。

  • ただし、「軍事転用」や「国の安全保障に関わる用途」と当局が判断する場合、許可拒否または厳格な審査となる可能性。

  • 申請・審査の遅れ、あるいは書類・用途証明要求などが実務上のボトルネックとなる可能性が高い。

2. 供給チェーン・コストへの影響

対象物質が「中・重希土類」であり、ハイテク、自動車、風力発電、磁石、軍事用途など幅広い用途があるため、以下の影響が想定されます:

  • 対象物質を使った磁石・合金・複合材料を輸入・加工している企業では、納期遅延・コスト上昇のリスクあり。

  • 安定供給を確保するため、代替素材・他国調達・再生利用の検討が促される。

  • 中国国内での処理・合金化・磁石製造で強みを持つため、今後も中国が優位な地位を維持しやすい。

3. 国際交渉/報復・外交リスク

この種の措置は単に経済的措置というよりも、外交・安全保障の文脈で語られています。中国側も「国の安全保障」「非拡散義務」などを理由に挙げています。
そのため、今後の展開としては:

  • 他国(特に米国・EU・日本など)が「不当な輸出制限」として国際的な反発・WTO提訴も含む対応を検討。

  • 中国と重要顧客国との間で、「適用の透明化」「ライセンス取得枠の明確化」「例外取り扱い」など協議する動きが出る可能性。

  • 中国側が一時的な凍結や「1年停止」などの政治的合意をする可能性もありますが、制度自体が恒常化する方向という分析もあります。たとえば、ニュースで「今回の措置は当面続く」との指摘もあります。

4. 日本・アジア企業への影響と対応策

日本を含むアジア企業において意識すべき点としては:

  • 対象物質を使っている製品・部材を洗い出す。特に磁石、自動車モーター、EV、風力発電、電子部品。

  • 中国からの調達分について、代替ルート(他国産・再生資源など)確保を検討。

  • 輸出入管理法制やライセンス申請が必要な商品が増えるため、調達・物流のリスク管理を強化する。

  • 今後中国側が「適用停止・解除」をするとしても、制度設計・実務適用が変わるため、油断せずに動向を注視する。

5. 「1年停止」合意との兼ね合い

ご質問の背景にあるように、米中の協議で「輸出管理関連措置を1年間停止」という報道がありますが(レアアース関連も含むという報道)、「7物質への措置」や「5物質の追加」について、この “1年停止” がどう適用されるかは 明確ではありません

たとえば、先に出た7物質分の措置については依然として許可制が有効であるという報道もあります。

つまり、合意による「停止」があったとしても、適用除外・例外・実務的な制約が残る可能性があります。従って、「今後1年で元通りになる/完全に解消される」とは考えず、“制度は残るが運用が多少緩和される可能性”と捉えるべきかもしれません。


🔮 将来シナリオ(可能性ベース)

いくつかのシナリオを想定すると:

  • シナリオA(緩和):中国が「1年間停止」の合意を履行し、例えば5物質の輸出管理適用を一時的に棚上げ、または許可取得を迅速化。これにより企業側の負荷が軽くなる。

  • シナリオB(制度維持+選別運用):制度自体は維持され、通常用途については許可が出されるが、国防・ハイテク用途については厳格運用を継続。実質的には “選別的適用” が主流。

  • シナリオC(強化):中国が更なる物質、関連装置、素材を対象に拡大し、許可のハードルを高める。特に半導体・量子技術・軍事用途向け部材への規制強化。実際、10月発表分では加工装置・バッテリー原材料まで含まれています。

1.主な影響・リスク

・調達コスト・納期リスクの上昇

  • 日本は、重希土類(例えばジスプロシウム、テルビウムなど)を、モーター用磁石、自動車(特にハイブリッド・EV)、風力発電、ロボットなどの用途で使っており、これらの物質の供給が中国で強く管理されると、許可の遅れや輸出量の制限、価格上昇のリスクがあります。

  • 実際、「2025年5月、日本の中国からの希土類輸入が前年比で約72%減」という報道もあります。

  • 納期遅延が製造ライン停止につながる可能性も指摘されており、例えばモーターや磁石を使う自動車部品業界では影響が想定されます。

・技術・素材の依存性浮き彫り

  • 日本企業は重希土類の代替技術(重希土類を使わない磁石など)を進めていますが、これも量産化・コストダウンが課題です。

  • 中国が「技術・機器・加工設備」まで輸出管理範囲を拡大する動きもあるため、素材だけでなく加工・製造装置面での依存リスクも高まっています。

・競争環境の変化・調達先の分散プレッシャー

  • 中国以外の国・地域(オーストラリア、東南アジアなど)からの調達拡大という動きが出ており、日本企業もその流れに乗らざるを得ません。

  • 今後、希土類の安定確保が企業戦略上の重要要因となり、コスト・供給リスクが競争力に直結する可能性があります。


2.日本企業・サプライチェーンにおける対応状況と課題

・代替素材・技術の開発

  • 例えば、 Proterial Ltd.(旧・日立金属)が「重希土類を使わないネオジム磁石」を開発中で、量産拡大を目指しています。

  • また、 Daido Steel Co. が既に重希土類フリーの磁石を製品化しており、自動車メーカーにも採用実績があります。

  • こうした技術転換は進んでいるものの、完全な移行には時間と投資が必要であり、短期的な供給ショックには耐えられない可能性があります。

・サプライチェーンの多元化・調達先の転換

  • 日本政府・企業は、オーストラリアの Lynas Rare Earths などを通じて中国以外の供給網を強化しています。日本の中国依存率は「90%超」から「60%未満」へ低下したというデータもあります。

  • ただし、「精錬・分離・磁石化」など中間プロセスを中国外でどこまで確立できるかがボトルネックです。新規プロジェクトの立ち上がり遅れ、価格低迷などの課題があります。

・政策・備蓄などの支援体制

  • 日本政府が「重要鉱物の安定供給に向けた政策」を打ち出しており、補助金・出資等で企業の取り組みを後押ししています。

  • 備蓄・リサイクルの拡大も進んでおり、使用済み磁石から希土類を回収する技術開発が進展中です。


3.具体的な影響が想定される業界・企業タイプ

  • 自動車・EVメーカー:高性能モーター用の磁石に重希土類が使われており、供給遅延や価格高騰が車両コスト・納期に影響。

  • 家電・産業機械・ロボット:モーター・ジェネレーター系の磁石を使う機器で影響。

  • 風力発電・再生エネルギー機器:大型磁石・発電機の部材調達でコスト・納期リスク。

  • 素材・磁石部材メーカー:希土類素材・磁石加工を手がける事業者にとって、原料調達の遅れ・コスト増が直結。

  • 防衛・ハイテク用途:中国が「軍事・高度技術用途」に対して許可を厳しくする文言を出していて、これら用途を扱う企業はリスク大。


4.まとめとしての影響観点

  • 短期的には「中国側の許可遅延・出荷抑制」による調達リスクが高まる。

  • 中期~長期的には「素材・技術の再設計」「調達先多元化」「リサイクル・代替技術の導入」が必須となる。

  • 日本企業にとっては、希土類調達が 企業の競争力・コスト構造・納期管理の重大な要素となりつつあります。

  • ただし、すべてを中国以外で代替できるわけではなく、「中国依存からの脱却」は時間・投資・技術転換を要するプロセスです。

🔍 レアアース規制とめっき工程との関連

まず、「レアアース=永久磁石やモーター用材料」という図式が強調されていますが、めっき工程にも影響しうる材料・部品が使われており、次のような関連があります。

  • 自動車の電動モーター、ハイブリッド/EVの駆動系には、永久磁石(例えば ジスプロシウム 、 テルビウム など中・重希土類を含む合金)をごく当たり前に使っており、これら磁石部品を固定・保護・絶縁・接合するための下地めっき、カバーめっき、端子部めっき、接触面めっきなどが存在。

  • 例えば、モーターのローター・ステーター部で磁石や磁石を囲む構造部品(鉄・鋼・アルミなど)にめっき処理(防錆、導電/絶縁、密着向上など)がなされます。磁石部品と構造体の接合・保持に使われる部材が、希土類磁石を含む部材や高性能モーター用部品であるため、希土類の入手・コスト変動がめっき材料選定や工程スケジュールにも波及しうる。

  • また、めっき工程で使われる “接続対象部材” が希土類由来の磁石、またはその周辺部材(たとえば磁石を固定したフレーム、ブラケット、接点端子)であることがあるため、磁石部品の調達難やコスト上昇 → 部品供給遅延 → めっき依頼部品の変動・優先順位転換・仕様変更が発生する可能性があります。


⚠️ 自動車めっき業界に想定される影響

上記関連性を踏まて、めっき業界(自動車向け)において具体的にどこに影響が出るかを整理します。

・部材調達・部品納期への波及

  • 磁石やモーター部品の供給が希土類輸出制限で影響を受けており、これが部品アッセンブリ/完成品での納期遅延に直結しつつあります。

  • めっきを依頼される部品が “磁石ユニットを含むモーター構造体” や “電動車用アクチュエータ部品” など希土類依存度の高い部材と連動している場合、めっき業者にも「部材が届かない」「先行工程が遅れてめっき工程が後ろ倒しになる」リスクがあります。

  • 部材の仕様変更(代替素材・構造変更)をメーカー側が検討し始めているため、めっき仕様(材質、前処理、めっき厚、耐環境性能など)にも設計変更の依頼・調整が増える可能性があります。

・コスト上昇・仕様見直しのプレッシャー

  • 希土類の調達コスト上昇や供給制限により、磁石・モーター部品のコストが上がると、これを受ける部品メーカー・めっきメーカーには原価圧力がかかります。

  • めっき工程を持つ部品サプライヤーは、「低コスト版・代素材版」への切り替え検討が進みつつあり、それに伴いめっき仕様(薄膜化、めっきの種類変更、耐環境性能軽減など)を見直す動きが出る可能性があります。

  • さらに、めっき材料自体(めっき浴、めっき用金属粉、触媒処理材等)も希土類影響を受けて間接的に影響を受けることがあり得ます(たとえば磁性をもたせるめっき、耐熱めっきに希土類由来化合物を微量添加していた場合など)。

・設計変更・代替技術切替の影響

  • 自動車メーカーが「重希土類を使わない磁石技術」など代替を模索しており、部品仕様が変わると、めっき対象部材(材質・形状・接触条件)が変わる → めっき工程も再評価が必要になります。

  • たとえば、モーターが軽量化・高回転化のために構造変更され、磁石配置が変わると固定フレーム部材の材質/厚みが変わり、対応するめっき処理(密着、防錆、導電/絶縁)に変更が入る可能性があります。

・リスク管理・在庫・サプライチェーン戦略の必要性

  • めっき加工業者・めっき材料業者としては、部材・部品の納期・仕様変更を見越して、部材受け入れ/めっきライン計画・在庫戦略を見直す必要があります。

  • 特に、モーター・アクチュエータ・センサー・電子部品向けめっきを手がけている場合、「希土類磁石ユニットの遅延=めっきの稼働量低下・調整コスト増」というリスクが顕在化しています。


🧮 自動車めっきへの影響度合い(評価)

めっき関連企業・部品メーカーが抱える影響を「高・中・低」リスクで整理します。

リスクレベル該当するケース解説
高リスク電動化/ハイブリッド車向けモーター部品のめっき、大型アクチュエータ・磁石ユニットと一体化した部品重希土類磁石を使うモーター構成部品がめっき対象になるため、希土類供給制限の直接影響を受けやすい。
中リスク自動車構造部品(軽量化アルミ・高強度鋼部材)をめっきするが、磁石・モーター部材とは離れている部品直接的な磁石供給制限の影響は少ないが、部材仕様変更・コスト上昇・納期遅延の “波及” を受けうる。
低リスク内燃機関車の一般的構造部品・めっき加工(マフラー部品、シャシー部品、ボルト・ナット)など磁石・希土類依存度の低い部材希土類磁石供給が直結しないため、影響は比較的小さい。ただし、サプライチェーン混乱の影響を受ける可能性あり。

🔮 今後に備えてめっき業者・自動車関連部品メーカーが取るべき対応

今後、めっき事業や部品加工事業において望ましい対応策を整理します。

  • 部材・部品の使用構成調査:そもそもめっき加工を依頼・受託している部品が、磁石・希土類含有材料・モーターユニット関連なのかを洗い出す。リスクが高い部材を早期に把握。

  • 調達先・納期リスクのモニタリング強化:めっき加工対象の部材・ユニットが希土類依存部材を含むなら、納期・仕様変更、価格変動をモニタリングし、めっきライン計画・受注計画に反映。

  • 材料代替・仕様変更対応:顧客(自動車メーカー、部品メーカー)に代替磁石仕様・軽量化構造・めっき仕様変更の動きが出ているため、めっき仕様の柔軟性(めっき厚・めっき種類・前処理条件)の見直し準備。

  • 在庫/受注体制の見直し:「めっきすべき部材が届かない=ライン稼働できない」リスクを踏まえ、めっき加工ラインの稼働柔軟性を高めつつ、代替部材対応や段階的生産切替を検討。

  • サプライチェーン可視化・協業強化:磁石・モーター部材、めっき加工、仕上げ部品という流れを視野に入れ、部品サプライヤーやめっき業者間で情報共有・納期調整を図る。

  • 政策・規制動向のフォロー:希土類輸出制限、許可制度、代替素材開発支援制度など政策変化を注視し、自社への影響を定期的に評価。